道産子バトンの歩くスキーの質問で思い出した。
北海道の小学校は、冬の体育の時間に歩くスキーをする所がある。 私の通っていた小学校もその一つで、小学校1年から6年まで、毎冬校庭をひたすら滑って歩いていた。 いや、1年時は、5歳にして「そんなカッタリィ事やってられるか。寒い」と、仮病使ってサボっていたが。 2年からは真面目にやっていた。 私が通っていた小学校は、田舎にあるため校舎も校庭も山の上にある。 と言っても、別に山道を通学するわけではないので、高台の上をイメージしていただければいいかもしれない。 周りは山だが。 小学校4年生の頃だろうか。学校から7分ぐらい歩いた所に小さなダムが出来た。 ダムと言っても、少し川の水をせき止めて、大雨の時に備えるような簡素なものだ。 水深は1mあれば良い方だろう。 その工事により、ダムがある場所の近くの木々が少し無くなり、ダムへ向かって長い傾斜が出来た。 先生は、それに目をつけた。 いつも平坦な場所を歩いているのは可哀想・・・と思えば生徒思いの良い先生だが、多分半分ぐらいは、先生も同じ平地をグルグルしているのに嫌気が差したのだろう。 ダムへは学校の前の道路から歩いて10分程だが、校舎裏の山に登り、獣道を行けば5分もかからない。 授業の場所は、ダム近くの傾斜に移った。 その前からも、学校の裏山の斜面を滑るという時間は与えられていたが、一時間ずっと斜面を滑れることなんて滅多になかった。 皆大はしゃぎ。私も大はしゃぎ。先生は、落ち着いついているように見えて、いつもより早足。 ダムに着いた。 準備運動は学校でしていたので、みんなすぐに滑り出す。 勿論、スピードを緩めるVの字滑りなどの、ちゃんとした内容もやる。 しかし、やっぱり皆思いっきり滑りたい。ある程度の内容をこなせば、後は先生の許可の元皆好きなように滑っていた。 5年生の時の担任の先生は、4年生の時の先生を師と仰ぐ程に尊敬していた。 その影響で、5年生の時も例のダムで滑る事になり、私達はまた獣道を越えた。 ある日、私達はいつものように先生と共に獣道を越えてダムの傾斜に着いた。 降り積もった雪に彩られた山々は、見慣れているとはいえ自然の美しさで私達の心を癒してくれる。 冬の澄んだ空には白い太陽が輝き、縁に薄い氷を張ったダムの水が、森から吹く穏やかな風に波紋を立てていた。 先生の号令と共に、生徒達は傾斜を滑り始める。 きゃっきゃと声を上げ、時にはプルプル震えながら、皆思い思いに自然と戯れた。 私はスキーがべらぼうにヘタクソだったので、常にプルプルガタガタゴロゴロ滑っていた。 授業も中盤に差し掛かった頃、私は少し雪の上に座り、楽しそうな皆を眺めながら休憩をとっていた。 サボリではない。 休憩する私に気付いた友人の何人かも、疲れを感じて同じく休憩を始める。 先生は、楽しそうな生徒を見てご満悦。 その時、傾斜を順調に滑っていたT君と、その友人の叫び声が坂の下から聞こえた。 T君「うわぁああああ!」 女子「きゃあぁああ!」 男子「Tー!!!!」 バシャーン!! T君が 水深30cmのダムに 落ちた。 T君「冷てぇえ!!!」 女子「ギャハハハハ!!びしょびしょだー!」 男子「ギャハハハハ!!馬鹿じゃねーのN!大丈夫かー?」 落ちる直前の悲鳴が嘘のように、皆笑い始める。 休憩していた私を含む友人も、眺めて軽く笑うだけ。 T君の傍にいなかった友人達は、気にせず滑り続ける。 本気で心配する人は、誰一人いないっぽい。 何しろT君は、過去にも漁港で遊んでいて海に落ち、漁師のオジサンに助けられたという経歴を持っている。 その時の事は、皆に漁港で遊ぶ時の注意を促すと共に、笑い話として生徒の記憶に深く刻み込まれた。 つまり、T君が水に落ちる=笑い話なのである。 先生だけは配して、慌てて坂を下っていった。 だが、着く頃にはT君も水からあがり、もう一度坂を上ろうとしている所だった。 学習能力が無いのではない。田舎の子供は逞しいのである。 幸い、スキーウェア(その頃はヤッケって言ってたね)だったので、中の服までは濡れなかったっぽい。 その後先生は、皆にも落ちないように注意し、また授業を再開した。 私も水には注意しようと思い、また滑り始める。 友人達も同じように注意し、坂を滑り始めた。 しかし、その後T君に影響されたのかそうでないのか、水にスキーの先っちょを突っ込む生徒が続出。 靴まで水に入る前に、皆転んで止るので、T君程の被害を受ける生徒はいなかった。 そして私も、スキーの先っちょまで水に突っ込んだ中の一人である。 別にふざけたわけではない。 尻餅をついて転んで止ろうとしたが、尻まで滑ってしまっただけだ。 その次の授業からは、ダムへ行く回数は減り、代わりに学校裏の坂道を滑る事になった。 体育館の窓から見える坂道。 図書室の窓から見える坂道。 だいたい校舎の屋上あたりの高さがある。 傾斜は「Z」の上の棒をなくしたぐらいに、急。 主に低学年がソリで滑るのだが、高学年の私達は歩くスキーで滑る事になった。 ゲレンデ用のスキーじゃない。歩くスキーのスキー板で。 案の定、転ぶ人続出。 私は何度も横の崖から転がり落ちた。 それでも先生は、入水されるよりはマシと思ったのか、そこでの授業は多くなったが・・・生徒にしてみれば、入水した方がマシだった。 PR |
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