私も早く乗りたい。
乗って家の周りを意味も無くグルグル暴走したい。
まだ純粋だった私は、そんな小さな冒険心とトキメキでいっぱいだった。
早く
早く
私も補助輪付きの自転車に・・・・。
せめて後に乗せてほしい。
間違いなくお巡りさんに注意されることだったが、ぶっちゃけそんなもんは転んだ奴か落ちた奴が悪いのである。
だが、残念な事に当時の姉は自転車に乗り始めたばかりで、二人乗りだたんて高度な技術は持っていなかった。
しかし、身長だけなら私も姉もさしてかわらない。
体重だってそんなにかわらない。
だからこそ私は余計に自転車に乗りたくなった。
乗りたくて乗りたくて仕方が無かった。
走れなくてもいい。
どうせ足は届かないのだから。
転んでもいい。
転ぶほど走れないから。
跨るだけでもいいんだ。
何故そんな事を思ったのか未だに謎である。
しかし、これらの事項は幼稚園児がするとかなりの危険を伴う。
が、当時の私にそんな事を考える脳みそなどなかった。
① オヤツ
② 自転車
③ ツルツルしたもの
が当時の私の脳を占拠していた主な事柄である。
欲望が溜まりに溜まり、限界を越えたある日、私は実力行使に出た。
それは、自転車に乗り、納屋から家まで走ってくる姉を止め、驚いた姉が自転車を降りた隙に奪うというものである。
馬鹿である。
しかし、当時の私はその計画が成功すると、どこから来るとも知れない確信を持っていた。
必ず成功する。
そして私は自転車に跨る事が出来る。
姉が納屋に向かった。
家の影から顔を半分だし、その様子を探る私。
数十秒後、案の定姉が自転車を出してきた。
ほくそ笑む私。
何も知らない姉は悠々と自転車に乗り、襲撃ポイントに近づく。
奇妙な緊張感が私を包んだ。
期待に胸を膨らませ、失敗など一切頭に無い私は、徐々にスピードを上げ、近づいてくる自転車の音に耳を済ませる。
あと5m
あと3m
あと1m
今ダ!!
「トマレ~~~~!!!」
「あぁあ!!」
勢い良く飛び出した私は、自転車を得られる期待と喜びに満ち溢れ、寸分の迷も無かった。
しかし
悲劇はやってくる
キキキキキキィィィィィィィl!!!!!!!!!!
ドゴ!
「ぐはぁ・・・・・」
耳を劈くようなブレーキ音の後、体中に響く鈍い音。
衝撃でと同時に股間に走る痛み。
思わず呻き声を上げ、立ったまま固まってしまった私に驚き、慌てて自転車を後退させる姉。
ゆっくりと股間から遠ざかる車輪に、ようやく現実に戻った私は大声で叫びながら、畑仕事をする母を探した。
「おかぁさぁあああん!!!T姉ちゃんに弾かれたぁああああ!!!」
「何いってんの!?Rikaが自分で飛び出してきたんでしょ!?」
「弾かれたぁああああ!!」
散々叫びながら、母を捜し畑を駆け巡る私と、私の語弊を正そうと必死に後を付いてくる姉。
ようやく落ち着いた私達のもとに母が現れたのは、家から離れた某団地の田んぼから帰ってきてからであった。
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